私に見えないものもある
物心ついたころにはすでに、他人には見えないはずのものが見えていた。幼い頃は素直に見えているものを口に出していたけれど、周りの大人達は真剣に取り合ってなどくれない。まぁ、真面目に受け取られていないからこそ、私は学び、ソレが見えていることは普通ではないのだと気付けた。
けれど見えているものは仕方がない。だからこそ、「ちゃんってたまに変なとこ見てるよね」なんて言われることだってあった。けれど気味悪がられることはない。そこで馬鹿正直に「いや私、皆には見えないものが見える体質なんだよねー」と言ったりしないからだ。
ここまで言えば皆さんお分かりだろう。そう、好感度メーターだ。残念ながら、今まで同じように「人の好感度がメーター化して見えるんだよね」という人に出会ったことがないので、分かち合うことが出来ない。非常に悩ましい。同じような境遇で、同じような悩みを持っているかもしれないのに、相談することが出来ないのだ。……今の私の状況について。
「、今日テニス部ミーティングだけで終わるんだ。だからどこか寄っていかないか」
最早疑問符すらついてない。もう彼の中で寄り道することは決定事項らしい。
「ほら、新しく入った雑貨店……行きたいって言ってただろ? 見に行こう」
確かに言った。雰囲気が凄くお洒落で可愛らしくて、覗いて見たいと言ったのを覚えてる。……クラスの友達に。間違っても降谷君には言っていない。そもそもクラス違うし。
「迎えに行くから、教室で待ってて」
そう言って頭を撫でて去っていく。降谷君の行動に周りの女子は色めき立ってきゃいきゃい言ってる。
「いいなぁちゃん、あんなにかっこいい彼氏がいて、しかも物凄く愛されてるなんて!」
「降谷君のちゃんを見るあの瞳! 甘いよね~!!」
言われなくても分かってる。視覚的に訴えかけてくるから。
降谷君の頭上に鎮座しているメーターは振り切っていて、それでも足りないのかまだまだメーターは伸び続けている。「会えない時間が愛を育てる……なんてよく聞くだろ? あれ、本当だなって思った。の事考えてるだけで幸せで、好きだって気持ちが育っていくんだ。会えたら会えたでさらに愛しい気持ちが増えるんだけどな」照れくさそうに、でも私の手をしっかり握って離さないまま言われたことがある。どんな拷問だよ……と意識が遠のきそうになったのを覚えてる。
ホント君なんなの? 私どうすればいいの? 中学に上がってクラスが離れて、『やった、これでメーター上昇が抑えられる!』と喜べたのは一瞬だった。休み時間のたびにやってくる降谷君のメーターがぎゅんぎゅん上がっていて眩暈がした。ここ最近など、赤以上の色に変化しないと思っていたメーターがキラキラとラメ仕様になっていた。さらに上があったのか……とつい感心してしまった。これはいよいよ私の身が危ういぞ、と同時に危機感が芽生えた。……万が一、万が一、だ。もし迫られたら私は逃げられるだろうか。……考えるのはやめておこうかな、うん。
「さん、数学のノート集めてるんだけど、今提出できる?」
「あ、うん。はいコレ、お疲れ様」
「いえいえ、オレ係だから」
放課後、ぼーっと時計を眺めていればクラスメイトの男子がノートの回収に来た。一番最初の席替えで席が近くなって、その時は少し話していたような気がする。今はもう席も離れて話す機会もなくなったけど。頭上のメーターは黄色。今の会話でメーターが2上がったことで、もうすぐメーターの色がオレンジに変わりそうだ。クラスの中でも仲のいい女子って認識かな。まぁまぁいい感じだろう。
「今の男、何。馴れ馴れしかったけど」
「あ、あれ。ミーティング終わるの早かったね」
後ろから腕が伸びてきて体が拘束された。耳元で話されビクリと体が震えた。
「あの男、絶対に気がある……」
「まさか」
「いや、絶対そうだ。を見る目……気に食わない」
いやキミ、大体の男子気に食わないって言ってるじゃん……。
それに、あの男の子のメーターは黄色。可もなく不可もなく、といった状態で、好意があるというにはせめてピンクに近いオレンジまでいかないと。クラスメイトの男子を手当たり次第威嚇されるのも困りものだな……とまともに取り合ってなかったのだけど。
まさか。
「その、入学した時からさんの事いいな、って思ってて……」
顔を赤らめ恥ずかしそうに頭を掻きながら打ち明けられた。メーターはいつの間にかピンクに近くなってる。何もしていないのに!
また勝手にメーター上がるなんて、降谷君現象が!? なんて呆然としている内に話が進んでいたようで、聞いていなかった。
「ど、どうかな……?」
ごめん、聞いてなかったからもう一回言って、なんて流石に言えない。けれど安易に返事をしてしまうのもよくない。
困ったなぁ、と黙っていると焦れたのか、彼が急かす様に手を伸ばしてきた。あ、掴まれる、と身構えた。けれど。
「、こんなところにいたのか。さぁ帰ろう」
急に何かに引き寄せられたと思ったら、伸ばされていた腕は降谷君によって跳ねのけられていた。
「君も、用が無いなら帰ったら?」
「い、いや、俺はさんに……」
「は? 俺のに何の用があるんだ」
呆然としていた男の子も、いきなり現れた降谷君に抗議しようとしたけど、黙ってしまった。そのまま悔しそうな顔して走り去ってしまった。
「ほらな。言った通りだろう?」
「いやでもそんな素振りなかったし……」
本当に、ちょっと前までメーターはオレンジにもなってなかったのだ。それがいきなりピンク……。ホントに何で?
「たかがクラスの係の仕事で「お疲れ様」なんてちょっと仲がいい女子に微笑まれたら、脈アリだと勘違いするヤツがいたっておかしくない。まぁとちょっと仲がいいとか勘違いもいいとこだけどな」
「え」
何それ。私がフラグ立ててたって事!?
いやそんなん分かんないって。じゃあもしかして降谷君がこんなにメーター爆上がりしてるのも、知らず知らずの内の私の何らかの行動がフラグになってたって事? それは無理だ……。好感度は見えるけど、フラグは見えない。
「はぁ、ホント……クラス離れた途端、こうだもんな。どんなに虫除けしてもに自覚がないんじゃなぁ……」
お前分かってる? なんてテンションで呆れられても困る。
私と降谷君はまだお友達なんだからね? 虫除けの必要性ないからね?
「どうするかな……」
だからそんな怪しげに舌なめずりしながら私を見ないでほしい。
END
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2018/08/02