私にしか見えていないものがある




気づいた時には、人には見えないものが見えていた。
それが自分以外の人に見えていないものなんだと気づいたのは幼稚園の頃。何となく周りと会話がかみ合わなかったからだ。
両親も周りの大人たちも、おかしな発言を繰り返す私に、幼児特有のマイ設定で遊んでいるのだろう、とあまり取り合ってくれなかったから、特に気味悪がられるということはなかったので、それは助かったのかもしれない。



「ぱぱだいすきー!!」
「ほんとかー! はいっつもパパが言ってほしい時に「大好き」って言ってくれるなぁ!」



見えてるからね。
父親の頭上にメーターが見える。乙女ゲームの好感度メーターだと思ってくれればいい。
好感度が上がるタイミングと適した言葉が表示されている。適したタイミングで適した言葉を選択すれば、メーターは上がる。このメーターが上がる量はこれまで積み重ねた親愛度によって異なる。
もちろん全人類が同じスタートというわけではなく、個々によって親愛値のスタートは異なる。両親の場合、そもそもの下地として肉親の情があるから、好感度メーターを上げるのはかなりのヌルゲーになる。でも例えばはす向かいの高校生のお姉さんは子供が苦手なのか、愛想よく挨拶をしたところでメーターは1も上がらない。ここ最近は慣れてきたのか、手を振り返してくれるようになった。このまま好感度を上げて親愛度を50まで上げれば、出会い頭にあめをくれるくらいにはなるかもしれないが、現在の親愛度は20もないので、果てしなく長い道のりになるだろう。親愛度が40を超えてこないと、タイミングと言葉の選択肢が表示されないのだ。
ちなみに、メーターの上昇によって色が、黒→青→緑→黄色→オレンジ→ピンク→赤と変わっていく。黄色だとまぁ、普通って感じ。大体の人は緑からオレンジの間であまり変わらない。
そしてこの好感度は対私のものしか見えない。

幼稚園の頃は、せっかく好感度が見えるんだから、と好感度を上げようと色々やってみたけど、これが中々に時間もかかるし地道な作業で、世の中の乙女ゲームみたいにイベントとかが転がっているわけもなく、小学校に入る前にやめてしまった。いや本当に疲れるんだって。ひまわり組のミキちゃんの好感度を30まで上げたら、すみれ組のユカちゃんの好感度が5も下がった。あの二人が仲悪いとか知らなかったしていうかこんなんで5も下がるの……。
好感度メーターとか当てにしないで普通に友達作った方が楽だな、と幼い時に気づけて本当に良かったと思ってる。


そんなこんなで小学校に入学し、心機一転、親友を自力で作るぞ!と意気込んでみたものの……。



「お、俺、ふるやれい。お前の名前は!!」



入学早々、お隣の席になった男の子のメーターが異常な事になってた。
まず、メーターの色がピンク。親愛度70オーバー。初対面でこれはありえない。親バカな父がメーターピンクで親愛度85(ぱぱ大好きーと唱えるとメーター赤の親愛度90越え)なのだから、本当に肉親レベル。若干引いて、それでも愛想笑いをしたらそれだけでメーター上がった。嘘だろ……。
ふるや少年はメーターと同じくらい赤い顔をしながらひたすら私が名乗るのを待っている。その間にもじりじりとメーターが上がっていくのだ……こんなん初めて見たわ……こわっ。
え、私これからこの子と同じ教室で生活していくの? なにそれほんと無理なんですけど!































なんて心の中で叫んだ私が懐かしい。
結局、どうでもいい世間話してるだけで上がるから、どうしようもなかったのだけど。
まぁ、メーターを下げようかとあからさまな無視とか色々試したんだけど、全部無駄だった。小学校高学年になる頃には、「、また照れてるのか? 可愛い」で済まされてしまうようになった。勝手にツンデレキャラにされてた。
もうすることなすこと全部好感度上げることに繋がるから、私も疲れてしまったし、放置することにした。アプリでいうと、ログインしない状態というか。
幸いなことに、中学で降谷君とクラスが離れたのだ。ホント僥倖。神様グッジョブ! まぁ、ちょっと遅すぎる感は否めないけども。
何てったって、小学校の卒業式で中学の制服を着て降谷君と会った時、ついに親愛度が100を突破したのだ。親でさえ超えないレベル。貞操の危機を感じるレベルだ。完全に降谷君の目が捕食者のそれだったもんなぁ……。いや本当にクラスが離れてよかった。
これからは放置だ。親愛度100超えてようが、何もしなければ徐々に落ち着くだろう。何といっても好感度どいうものは総じて変動が激しいものだから。

世の中には放置ゲーと言って、何もしなくても勝手にレベルが上がっていくシステムがあることを知らなかった私が、降谷君に捕まる前の平和だったころの話であった。



END
---------------------------------
2018/08/02