政府の闇

私はいわゆる官僚だ。政府の役人。しかし別に政治を担っている訳ではない。西暦2205年、時の政府は過去へ干渉し歴史改変を目論む「歴史修正主義者」に対抗すべく、物に眠る想いや心を目覚めさせ力を引き出す能力を持つ『審神者』と刀剣より生み出された付喪神『刀剣男士』を各時代へと送り込み、戦いを繰り広げる。しかし、その付喪神の召喚が難点で、審神者と呼ばれるその者達は非常に数が少ない。そもそも、その霊力の有無が分かりにくいのだ。そのため政府は教育機関にて適性を測るのだが、その話は今は置いておく。
私の仕事は、審神者達の管理だ。数が少ないながらもそこそこいる審神者達の様子を伺う。きちんと仕事をこなしていれば褒美を与え、そうでなければ罰を与える。世間によく言うブラック本丸の阻止・予防・撤廃と言えばいいのだろうか。その他にも、新しい審神者の育成とか、戦場の調査とか、多岐にわたる。審神者達からは監査官と呼ばれ、月一の審神者会議と、2ヶ月から3ヶ月に一度の訪問視察で問題の有無を確認し、上に報告している。これがまぁ中々の激務で、監査官になれる人間が、審神者以上に少ないのだ。そのため、一人で何個もの本丸を担当しなくてはいけない。これは監査官になれる人の条件が審神者以上に厳しいため、仕方がないのだ。まぁ、詳しく話すことはしないが、政府の思惑が絡んでいる。
かれこれ話したけれど、簡単に言えば、ブラック本丸とかマジ許さねーから! そんな事したらお前クビな!! って感じ。政府は審神者ではなく刀剣を大事にしているという事実はあしからず。とは言っても、政府が万年審神者不足に悩まされているのは事実で、どんな審神者であろうが能力があるなら使いたい。わざわざ摘発して審神者をクビにしたところで、ただ仕事が増えて己の首を絞める……メリットが大してないのだ。おかげで年間のブラック本丸摘発数は雀の涙ほどで、実態を鑑みると「まじ政府仕事してねーな」と言われてもおかしくない。間違ってもいない。よくネットで「政府ブラックだからな」とか言われているけど、私もその通りだと思う。というか政府がホワイトだった事なんか一度もないだろうに。こういうのもなんだし、絶対秘密にしておいて欲しいのだけど、貴方がた審神者の担当監査官、99.9%ブラック本丸の審神者から袖の下貰ってるから。ブラック本丸だと分かっても大抵見て見ぬふりしてるから。

さて。
ブラック政府の役人である私は、もちろん複数の本丸で監査官として働いている。受け持っている本丸達はそれぞれまぁ個性豊かすぎて色々疲れるが、その中にブラック本丸が一つある。これがもう、まさに絵に書いたようなブラック本丸で、気づいた当初は笑ってしまったものだ。やれる事大体やっちゃいましたっていうくらい。暴力なんて当たり前。その審神者、男なのだが、まさに金持った豚って表現がぴったりで、初めて会った時から「こいつ恐らくやるな」とは思っていたけど、本当にそうなるとは。己の醜い容姿を自覚していて、美麗な刀剣男士に場違いな嫉妬をしていた。それでも刀剣男士達に主と跪かれていい気になったのだろう。何をしても刃を向けられることがないと分かってからは早かった。あいつの八つ当たりをその身に受けている刀剣男士達には深く同情する。
2度目の訪問視察に行った時に、「あぁもう、これは手遅れだな」と見切りをつけた。もしかしたら真面目に仕事をする羽目になるかもしれない、と思った。しかし、審神者もそこまで馬鹿じゃなかったのか、監査官の前では取り繕うことを知っていたのだ。まるで問題などないかのように見せることをして、尚且つ、今後とも良しなに、とでも言いたげに賄賂を渡す。流石、今まで金で何もかもを解決してきただけある。政府の役人と言えども監査官は審神者に比べれば薄給なこともあり、賄賂を黙って受け取る役人ばっかりだ。審神者の給料が高いのは、命の危険があるからだが、そこを理解している審神者はほとんどいないだろう。そんな高い給料は、本丸から出ることの少ない審神者にあまり使い道もなく(浪費してる奴はいるけど)、そんな時審神者は少しでも資材面などで優遇してもらおうと監査官に貢ぐのだ(言い方悪いけど)。ホワイト本丸の審神者だって袖の下を送ってくる。もうお中元やお歳暮だと思うことにしている。訪問すれば高い茶にお菓子が出てくるし。監査官は審神者に比べて薄給ではあるが、地位はかなり高いのだ。そしてあまり詳しく言わないが、審神者よりも霊力値が高い。中には高等な術を使える監査官もいる。仕事内容に関係しているからだとだけ言っておくが、そんなこともあり、審神者は監査官に力ずくでどうこうできないようになっている。だから、ブラック本丸の審神者は私の機嫌を損ねることのないように、それはもう用意周到なまでに取り繕っている。それがなければ流石の私も仕事してた。
具体的に言えば、私が訪れる時を狙って、重傷放置してた刀剣男士達を手入れし、本丸内を清め、まるでホワイト本丸のように刀剣男士達と仲がいいように振舞う。涙ぐましいことをしてくれるじゃないか。いや、刀剣男士が、だけど。小さい弟たちを人質に取られ脅されているのだろうと容易に想像がつく一期一振や江雪左文字の演技力たるや賞賛に値する。彼らに出迎えてもらう度に、僅かながらに機能している良心が痛む。苦しく、辛いだろうに、あんな男が主になったばかりに。まぁあの男を審神者にしたのは政府だけど。人は見かけによらないって言うんだけど、今回は見かけによったな、としみじみ思う。

かと言って、私は彼らを進んで助けにいかないのだけど。
だって、政府はブラックで、そんな政府に所属している私も、もれなくブラックで。
だから正直ブラック審神者を人のクズだということは出来ないのだ。私はもっとクズなのだから。











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2015/05/19
碓氷京