No/Knows;U

Amore














若菜ちゃんは跡形もなく消えてしまった。地面に染み込んでたはずの血も見当たらない。
平成に帰れているならいい。けど、あの怪我じゃただで済むとは思えない。でももうどうしようもないのだ。
若菜ちゃんが使っていた部屋を確認したかったけど、許されなかった。兵助がまるで監視でもしてるかのように傍から離れてくれないし、少しでも若菜ちゃんを気にする素振りを見せると、機嫌が下降するからだ。
休み時間も放課後もずっと一緒にいる。周りもそれが当然だという態度で、私以外誰も気にしていない。若菜ちゃんが突然いなくなったことさえ、誰も話題にしていないようだった。まるで最初から存在しなかったかのようだ。



「よう。久々知、



兵助と一緒に食堂へ向かう道すがら、ケマトメ先輩に声をかけられた。



「これからメシか?」

「食満留三郎先輩。先輩はもう食べ終わったんですか?」

「いいや。まだ委員会活動が残っててな。先にやっちまおうと思って」

「お疲れ様です」

「ケマトメ先輩。お手伝いとか」

、お前はさっさとメシ食っちまえ」

、行こう」



手伝いを申し出ても、断られてしまった。そのまま兵助に腕を引かれる。
ケマトメ先輩とすれ違いざまに、先輩は思い出したように声を上げた。



「あぁそうだ、

「ケマトメ先輩?」

「やっぱり手遅れだ。あんなに忠告してやったのにな」

「手遅れ……」

「せいぜい頑張るんだな。もう俺は助けてやれん」



そうは言っても、先輩の表情は無だった。気遣うような表情でも何でもなかった。



、行こう。もうみんな待ってるぞ」

「え、あ、うん……」



ケマトメ先輩は廊下に立ってこちらを見たままだ。
手遅れというのは、若菜ちゃんのことだろうか。ケマトメ先輩から受けた忠告は、どんなのだったっけ。
思い出そうとしても、すぐに兵助に腕を引かれて中断させられる。
手遅れとは一体何のことなのか、結局わからずじまいだった。





















































ただ、が俺に向けて笑ってくれるだけでよかったはずだった。最初は。のいろんな表情が見たくて、特に嬉しそうにする顔が見たかった。さらには、俺にだけ特別の顔を向けてもらえれば言うことなんかなかったはずだ。
なのに、それだけじゃ満足できなくなった。が応えてくれるようになったということもあるけど。
ずっとずっと想い続けてきた。その間誰かがに近づくんじゃないかと気が気じゃなかったし、もしそうなったとしても俺には止められない。そんな関係から、一転して、が俺の傍に居てくれような関係になった。嬉しかった。

それからしばらくは幸せだった。俺の持つ「好き」との「好き」の間には大きな隔たりがあったけど、そんなのどうでもよかった。問題にならなかった。どんなものでも、が好きだと思ってくれるならなんだってよかった。

それなのに。

空から落ちてきた女は厄介事しか持ち込まなかった。俺からを奪っていったし、消えてもの思考からいなくならない。どこまでも邪魔しかしない。
あれは人間じゃなかった。身体が残らないってどういうことだ。跡形もなく消えるだなんて。やっぱりよくないものだったんだろう。に怪しい術でもかけてたんじゃないだろうか。以外、全員あの女を不審に思っていた。だけはあの女を気にかけていた。
その内、とあの女の間に何かあるのだと気付いた。最初にあの女がは自分と同じところから来ただの言っていた。きっとそれに関係することなのだろう。
正直、どうでもよかった。
の出自が実際不明なのは知ってた。けど、そんなのどうでもいい。今ここにがいる。それだけで十分だ。
だからあの女から遠ざけたかった。連れて帰るなんてふざけたことを言っているのも気に食わないし、もしがその気になったら……。

あぁ、でも。
もういいんだ。もうあの女はいない。今はも気にしているがその内忘れていくだろう。だって俺がいるんだし。
これから先、もし邪魔する奴がいたら、もう対処の仕方もわかった。さっさと消してしまえばいい。簡単なことだった。
思えば、面倒なことをした。ただ黙ってが俺を選ぶのを待っても、いいことなんかなかった。結果が変わらないなら、時間をかけることなんてない。どうせ最後には俺のそばにいるんだ。だったら長くいてもらったほうがいいに決まってる。


俺の文机に向かって宿題をやってるを見る。
ゆっくり近づいて後ろから手を回した。



「兵助? どうしたの?」



少し迷惑そうに俺を見るに、自然と笑みがこぼれた。は本当に可愛い。これが俺のものだなんて。



、愛してる。絶対離してやんない」

「いや、宿題出来ないんだけど……」

……」



いつまで経っても気づかないに少しだけもどかしいけど、それでもよかった。
の首筋に顔を埋めた。

まぁいいさ。
もうは俺から逃げられない。逃げさせない。永遠に俺のものだ。

だからそのままずっと俺を見ていて。











               END




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長らくお世話になりました。これにて本編は終了です。
中途半端で書ききれない部分はfeatの方で補足していきます。

全体のあとがきはまた後日。

ここまでお付き合い、ありがとうございました。





              2014/05/05