「あぁ、本当にあの天女サマとやら、消えてくれないかしら」
怖くて仕方がない。どうしてはこんな単純なことにいつまでも気づいてくれないんだろうか。そんなんだからこんなことに私が口を出さなきゃいけないのだから。
いつか絶対、は久々知に拘束されるだろう。友人として、私はの幸せを願っている。勘ちゃん達と違って、目的のためなら手段を選ばないだなんて野蛮なことはしないのだ。
だから、せめて最小の被害で済むように過激を装う。
「ダメだよ、……こんな誰に聞かれてるかわかんないところで、そんなこと言っちゃあ……」
「……平気だろ、誰かあの天女を好きなヤツいんのか?」
「だから、それがなのよ。ってば、何だか知らないけどあの女に絆されちゃってるみたい」
正直、5年間一緒に過ごしてきた友人として見れば、どうやらの持つ何らかの事情に関わりがありそうだ。六年の食満留三郎先輩もそのようなことを言っていた。きっと先輩の方が詳しいのだろう。
は隠し事が下手になった。あの天女が来てから。
「御園の言うとおりだ。は責任感が強いから、最後までやり遂げようと思ってるみたいだけど、それがいつまで続くのか……考えるだけで」
「兵助、こんなところで苦無出さないでよ」
「……悪い」
本当に怖い。恐ろしい。
何するかわからないから、ある程度手に入れる形になれば収まるだろう、と思ってを差し出した。その方がきっと、も幸せだと思ったから。
それこそ、は久々知に絆された。過程はどうであれ、結果は久々知を好きになったのだし、それはまぁ、いいだろう。
久々知は無意識なのかどうなのか、苦無を取り出す。その苦無はしっかり手入れされていて、少しだけ口が引きつってしまった。
「……嫉妬で人を殺すのは、たまごとは言え……忍失格だろうか」
「……あー……それね、私も考えちゃった。何よりに知られたら……」
「あぁ、その問題もあったな……」
「……俺にしてみりゃあ、天女は殺す方向で話を進めてるお前らの方が問題だ。ま、とめねーけど!」
私だって、仲の良かった友人を奪われるのは面白くなかった。それも得体の知れないヤツになんて、もってのほかだ。でも、言うほど拘っているわけでもない。その自覚はもちろんある。
結局、どんなことであれ、決めるのは自身なのだ。せいぜい、その選択肢を増やすことしかできない。だというのに。
「いいんじゃない? 世の中弱肉強食、欲しいものは奪ってでも手に入れるっていうのが認められてるんだしさ」
私の幼馴染は過激なのだ。
そして、友人をとても大事にする。過剰に。
「兵助もふみもさ、そんな難しく考えなくてもいいんじゃない? ちゃんにだけ、知られないようにすればいいよ。ね?」
「それもそうね」
「いや、別に知られても……の気持ちをこっちに向かせる自信あるし」
「そうそう兵助、その意気だよ!」
「ただ、決行までは知られない方がいいだろうな。が邪魔するかもしれない」
「そこは私に任せてよ。足止めとかいくらでもするわ」
久々知の病的なまでの執着は、元からの性質なのかもしれないけど、それ以上に育てたのは絶対に幼馴染をはじめとするこいつらだ。
地味だなんだと言われているくせに、こうもアクが強い。
「皆して、そんな楽しそうな声で……何話してたの?」
「……?」
出来ればには、さっさと久々知平助の性質に気づいて欲しい。
じゃないと、はいつまでたっても久々知がただの優等生であると思い込んでしまう。そんなわけない。
「あら、ダメよ。秘密のお話なの」
「秘密の……? なら、しょうがないね」
せめてが傷つかないようにだけ、配慮しよう。
その他のことは、別に、いいでしょう。
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友人・御園ふみの思い。
彼女は友人思いなのです。とっても。
2013/09/01
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