No/Knows;U

L'inizio feat.久々知兵助














「お願いだから落ち着いて! まだ外明るいのに! それに勘ちゃんが戻ってくるかもしれないでしょ、ね? お願いだから……兵助……」



襟に手をかけて、そのまま脱がせようとしたところを必死のに止められる。……仕方ない。横たえたを起こして、膝の上に乗っける。それにもは抵抗したけど、これ以上の譲歩はしない。



「……夜はもう、一切聞かないからな」

「へ、兵助……」



はくはくと口を閉じたり開いたり。一応、自分に非があると自覚でもしたのか、徐々に大人しくなっていった。夜を仄めかしても、嫌がらなかった。……元々そう嫌がることはなかった。だから俺はが愛してくれているって思えるのだけど。



「兵助、あのね、若菜ちゃ」

「あの女の話なんか聞きたくない。ねぇ、今俺といるのに。俺のこと考えて」

「で、でも……」

「いいから。そうだ、。貰い物なんだけど、べこ餅があるんだ。食べよう」



この状況で、は何であの女の話を持ち出すのか。何もかもが後手後手なんだ、は。
もっと早く。お前が姿を見せなくなる前に一言でもあったらまた違ったんだろうな。もしも話になるけれど。それでもきっと俺は我慢できなかったんじゃないだろうか。得体の知れない奴にが……考えるだけで、ダメだ。殺したくなる。
を抱えたまま、べこ餅の入っている箱を引き寄せた。ちょうどよかった。前に、と食べようと手配しておいたかいがあった。



「はい、。好きだろ?」



差し出したそれは受け取られず、はただ俺の顔を見続ける。この視線に色が入っていれば歓迎してたんだけど。
どうしてもは俺に聞かせたいらしい。



「わかった。聞くよ……」



渋々と言えば、安堵したような息を吐く。



「あの子のことは、学園長先生から任されたことだから、途中で放り投げるなんて出来ない」

「だからって、俺とだけじゃなく、御園や勘右衛門たちと一緒に居られなくなるんなておかしいだろ。それにあの女、を別の人と勘違いした挙句、の存在を否定してるじゃないか。何でそんなヤツの面倒を見なきゃならないんだ」



言いたいことは分かっていた。どうせあの天女サマを擁護する言葉が出てくるんだろう。
言い返しても、怯んでくれなかった。



「それは、あの子、いきなり自分の知らないところに来て戸惑って、似てる人がいたから思わず」

「そうやってはあの女を庇う。……それを聞くたび、何かとあの女の間に何かあるんじゃないかと勘繰ってしまいそうになる」



言外に、そうなんだろ、というのを含めて言う。ただ、は素直に言うわけないが。
どんなにが俺に気持ちも体もくれても、心の一番奥深くは見せてくれない。そりゃあ、そんなにすぐに全部をさらけ出せる人はいないだろう。そんなことは分かってる。頭で理解はしているのに、気持ちが追いつかない。
だって俺はの全部が欲しいんだ。



「兵助の考えすぎだよ」

「……だよな」



やっぱり濁す。
俺はの全てになりたいのに。どうすればなれるんだろう。俺の全てはもう、とっくの昔になのに。



「でも、。我慢とか、無理しなくていいんだからな。そもそもが心を砕く必要なんてないんだし……」

「うん。ありがとう。キツくなったらすぐ、兵助に言うから」

「ならいいんだけど……」



多分、はそうは言っても、全部自分でこなそうとするだろう。俺たちをないがしろにしてでも。



「……いつかは、の抱えてる重い荷物。俺にも分けてくれる、よな?」



はただ曖昧に微笑むだけで何も言わなかった。
もう、これ以上は何を言っても無駄だな。



「……、べこ餅食べよう」

「うん。ありがとう」



まぁ、今日はもうここから出さないし。後は勘右衛門に文でも書いてハチの部屋の障子に挟めておけばいいだろう。















































朝起きて早々、に文句を言われた。その文句も可愛いから。後朝の文とかじゃないけど、と夜を過ごした後の朝は好きだ。いつもより早く目が覚めるから、の寝てる顔を眺められるし、起きる瞬間も見られる。
起きて、が状況を把握して顔を赤くする過程が、もう、たまらない。授業がなければもっとゆっくり出来るんだけど。
あの後、すっかり頭の中から天女のことは消えたらしく、一言も言わなかった。



「……無理させた?」

「……そういうこと、言わないでよ」



恥ずかしくなる。顔を赤くしたを抱きしめた。
着替える動きがぎこちなくて、少しだけ反省した。昨夜は、まぁ、久しぶりだったし。清算してもらうつもりだったから。



「そんなに怒んないで」

「怒ってない、けど。もう、離して! 早く着替えないと」

「手伝う?」



枕を投げつけられた。簡単に受けとめちゃったけど。そのまま後ろを向いてしまった。そして髪を結い始めた。



「髪紐……」

「え? あ、兵助の借りたままだったね、ごめん」

「あぁそれはいいんだ。そのまま使って。まだ髪紐無いだろ?」

「買いに行けてないもの……ねぇ、あのさ」

「いつでもいいよ。言ってくれれば予定開ける」



覚えていてくれてたことに、心臓が跳ねた。俺が髪紐を選びたいと言ったことを、気にしてくれてる。



「何色がいいかな。こうして見ると、紅もいいし。前の青もよかった」



髪を掬って口付ける。顔を赤くして、やっぱりもうしばらくこのまま部屋にいたいな、って思う。










                         END








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久々知が幸せになって欲しいって皆言うから。まぁ、たまには。