"Love means not ever having to say that you are sorry.";feat.久々知兵助











行動は早かった。
の気持ちがわかった途端、すぐに動いた。それ以上待つなんて出来なかったから。御園に頼み、を忍たまの敷地に来るように仕向けた。後は俺がに遭遇出来ればよかった。幸運にも1回目で成功し、密かに運命に感謝した。
とにかくを人気のないところに連れていく。俺は別に会ったその場所でも構わないけれど、それだとは答えてくれないだろう、と思ったのだ。は常に周りの反応を伺っている。



「好きだ。俺と付き合ってほしい」



そう言った瞬間、は裏切られたかのような顔をした。なぁ。お前は上手く隠してたつもりかもしれないが、そんなの無意味だ。どうあっても、俺はを逃がすつもりなんかない。それがを追い詰めるものだとしても。いや、むしろ追い詰められて正常な判断なんか出来なくなればいい。



、聞いてるか? 俺は、が好きなんだ。どうしようもないくらい。のいない世界なんて考えられない。ずっとの傍にいたいんだの傍に寄り添う権利がほしい」

「ちょ、あの……」

「神様とやらがいるのなら、といられることを感謝するよ。の思うことは全て知りたいし、解りたい。望みだって叶えてやりたいと思う。……最初は見てるだけで幸せだったんだ。でも、もうそれだけじゃ我慢できなくなった。の喜ぶ顔や泣いた顔、全部知りたい。俺がの喜ぶことをしてやりたい。は俺が守りたいんだ。……あぁ、何か違うな。これは俺のしたいことだ。ごめん。好きっていう言葉以外に正しい言葉が思い浮かばない。好き、好きなんだ。のことが。どうしようもないくらい」



とにかく言葉を重ねた。みたいなタイプの人間は、自分の脳内容量よりも多くを詰め込まれると正常な判断ができなくなる。それを利用させてもらった。
そして、未だ固まって呆然としているを引き寄せ、腕の中に収める。くのたまなのに、こんなに華奢でいいのか。こんな、すぐに壊れそうでいいんだろうか。の精一杯の抵抗が可愛らしい。



「は、離して……」



そんな真っ赤な顔をして。



「ごめん。無理だ。……そんなに赤い顔して目を潤ませて……逆効果に決まってるだろ」



無意識に力が強くなる。絶対に離したくない。離せない。



「なぁ。なぁ、。俺を卑怯だと思うか? こうしての逃げ場を無くして、たった一つしか答えを認めようとしない俺を。なぁ、でも後悔してないんだ。が好きだから」



あぁ、俺は卑怯なんだ。
の気持ちが俺に向いたと確信するまで動けなかった、臆病者でもある。でも、それでもいい。何でもよかった。
がいれば何でもいい。



。好きだ。……返事を、聞かせてくれないか」



ずるいなんて分かってる。肯定の返事しか出せない状況にまで持ってきて。でもどうしてもがほしいんだからしょうがない。
しばらく沈黙が続いた。の心臓の音が直接俺の体に響いてくる。いや、もしかしたらこれは俺の心臓の音かもしれない。



「……私に、兵助と同じくらい、気持ちを返すことは出来るかなぁ……」



身体が歓喜に震えた。思わず笑みがこぼれる。
今、この瞬間、は俺の手の中に。が手にはいった。



「無理じゃないか。俺とじゃ年季の入り方が違うんだ。それでなくとも、俺の方が大きくて重いよ。それでいいんだ。俺はに同じく想ってほしいとは思ったことないんだ。ただ、が俺に気持ちを向けてくれるってだけで十分満たされる」



本当のことだ。が俺に向ける気持ちがただの『好意』でも全然構わない。それをが『愛』だと錯覚すれば、俺に非常に有利になる。



「そっか。そうなんだ。……じゃあ、大丈夫かな。上手くやれると思うよ」



あぁ、俺もそう思うよ。知らないだろうけど、俺とは相性がいいんだ。が何もしなくても事は進むよ。俺がいるんだから。

ごめん。ごめんな。
これが、最初で最後の謝罪だ。俺はを捕まえてしまったよ。俺なんかに捕まってしまって、可哀想な。でももう、手放してやるなんて思えない。思わない。



「五年い組の久々知兵助が、好きです」

「……ありがとう。好きになってくれて」



こんな俺を受け入れようとしてくれてありがとう。
は後悔するかもしれない。けど、離してやらない。逃がしもしない。
だって俺は、が好きなんだから。






                        END