デブ専とは二度と付き合わない。 6








 ミス&ミスターコンの何とも言えない結果発表までを見届けて、そろそろ帰ろうかと一息ついた瞬間から、私は中学時代の同級生達に囲まれた。

「今までさんの事誤解して酷いことばっかり言ってた……ごめんね」
「本当は先輩の為にわざとあんなに太ってたんだね……」
「……ところで、あの状態から数か月でどうやってそこまで痩せれたの?」

 女の子達は顔を合わせるなり口々に謝ってくれたけれど、多分一番聞きたい事は「どうやって痩せたのか」なんだろう。
 どうやっても何も、別に特別なダイエットはしていない。無理やり詰め込んでいた食事を健康的なものに戻して、ひたすら高専の敷地内を散歩しただけだ。そう伝えると、期待外れだったのかがっかりしたような顔して離れていった。本当の事しか言ってないのに。まぁ、付け加えるならば医者の卵による監視が24時間ついていたということくらいだろうか。自棄になっていたというのもあるかもしれない。結局何でも、続ける気力が無いと結果は出ない、という事で。
 そして男の子達は、

「実は中学の頃からいいと思ってて……」
「連絡先交換しない? 今度遊びに行こうよ」
「俺とも交換しよ」

 何なんだろう、これは。
 彼氏の為なら体型すら変える、何でもいう事を聞いてくれる女だとでも思われているのだろうか。それとも、彼氏に振られたばかりの女なら簡単に落ちるとでも思っているのか。……振られた数時間後に五条の告白を一応ながら受け入れた身なので、簡単に落ちたと言われることに反論は出来ないかもしれないけど、お生憎様。全部お断りだ。
 例え五条に嫌われ失望されようが、私は私のなりたい私を目指すと決めているのだから。
 断りの言葉を告げようと口を開きかけたその時、五条が私の身体を強く引き寄せた。そして私に声を掛けてきた元同級生達に険しい目を向けた。

「――悪いけど、もう遅いんだよ。は俺の彼女だし、この先手放す予定なんて欠片も無いからさっさと諦めろ。な、
「え、ええっ?」

 驚く私に、五条が爽やかに笑いかける。口元は笑っているのに目は笑っていないのが妙に恐ろしい。

「こぉんなに近くにいるのに俺が見えてないとか、眼科行った方がいいよ。それとも、今以上に俺らが仲良くしてるとこ見たいってワケ?」

 五条の言葉にそそくさと皆離れていった。ふん、と機嫌悪そうな五条に不謹慎ながら少し嬉しくなって笑ってしまった。私の誤解が解けたからか、本当に五条が私を好きでいてくれて、その上きちんと庇って守ってもらえている現状が、胸にきゅんときた。
 五条は最初訝し気に私を見たけど、すぐに嬉し気に目を細めると、頬に小さくキスを落とした。

「なぁに、そんな可愛い顔しちゃってさ。そんな表情、絶対俺以外に見せたりすんなよ。せっかくを手に入れたのに、また新しい敵が増えるから」

 その大袈裟な言い方に、思わず吹き出してしまう。そんな心配しなくても、ありえないのに。

「大丈夫だよ。私なんかを可愛いって言うのは五条くらいだし」

 笑顔でそう返すと、五条はちょっと困ったような顔をした。

「……そんなわけあるか。あの男に付き合わされてずっと言いたい放題言われてたからか、は自己評価低すぎ。太ってた時のも可愛かったけど、今のは誰が見ても可愛くて魅力的なの。それを自覚してもらわないと困るんだけど」
「そうかなぁ」
「……駄目だな。じゃあいいよ。これからずっと一緒にいるんだし、よくよく分からせてやるよ」

 私が本気にすることなく笑っていると、五条は深刻そうな顔で額に手を当てて、ため息をついた。……もしかして本気の本気で言っているんだろうか。いやでもそんな。

「帰ろうぜ。腹減ったし、傑達も早々に飽きて休んでるみたいだし。ファミレスでもいいからとりあえず何か食いたい」
「……そう言えば硝子達いないね」

 携帯を見れば、休憩スペースで休んでいるという旨の連絡が届いていた。隣で五条が夏油に電話を掛けているからこちらからは何も返さなくてよさそうだ。
 校門前を待ち合わせ場所にして少し待っていればすぐに硝子達と合流できた。別行動している間、二人とも特に何かを食べていたわけでもなかったらしく、ファミレスに行くことに異議は出なかった。

「無事にちゃんとくっついたようで良かったよ」
「今日は五条の奢りな」
「なんでだよ」

 少しだけ不満そうに口を尖らせた五条は、それでもすぐににこにこと晴れやかな笑顔に戻って私の肩を抱いた。

「むしろ祝ってくれてもいいじゃん? もう任務も落ち着いたし、これからは沢山デート行けるしさ。お前らに見せてやりたかったよ。を今まで馬鹿にしてきた奴らが悔しそうに去っていく姿! もう既に俺のものなんだって見せつけてやってさ」

 五条は上機嫌で私の頬にキスしようとする。

「悟、私達の目の前で遠慮なくいちゃついていいとは言ってないよ。節度というものを守ってくれないか」
、考え直したら? あんな苦しそうな顔して食事してた頃よりはマシだと思ったから五条と付き合う事に反対しなかったけど……。男見る目ないよ、やっぱり」

 夏油と硝子の言葉に、そう言えばさっきから当然の様に受け入れていたけどここは外だったと今更ながらに思い当たった。バネで弾かれるようにして五条の腕の中から抜け出す。

「あ! おい、余計な事言うなよな!」

 後悔はない。先輩と付き合っていたことにだって後悔はないのだから、尚更。振り回されるのはもうこりごりだとは思ったし、一生懸命太っていた時期がとても楽しかったとは言えないけれど。
 五条は私がどんな私でもいいと言ってくれたから。私がなりたい『私』であることを受け入れてくれるから。五条でいいのではなく、五条がいいのだ。例え他の人から見て見る目が無いと思われるような性格クズだとしても、構わない。

「いいの。私にとっては最高の彼氏だから」

 夏油と硝子に対してぶつくさと文句を言っていた五条は、けれども私の姿を見ていかにも嬉しそうに笑った。夏油と硝子も微笑んでいる。
 私はもう、二度とデブ専とは付き合わない。