L'EMPEREUR












病院へ向かう道程、赤司君は一切先程のことに触れてこなかった。私自身、何を言えばいいのか分からずそのまま知らないふりした。
道中は主に姉さんの様子について話した。
病院についてからは私が先行するかたちで赤司君を病室まで案内する。産婦人科の棟は、妊婦さんより赤ちゃんを抱いたお母さん方が多い。
生まれたばかりの赤ちゃんはやっぱり何となく目がいってしまう。
この空間に、私たちのような学生は目立つ。いつもは全然気にならないのに、今日は居心地が悪い。



「あら、ちゃん。お見舞い?」

「こんにちは。姉は元気ですか?」



何とはなしに首を撫でると、向かいから馴染みの看護師さんが声をかけてくれた。



「えぇ、もちろん。あらあら? そっちの子は……」

「あ、彼はウチのお隣さんで」

ちゃんの彼氏?! やだーっこんなかっこいい子! ちゃんやるわね、こっちに来てそんな経ってないんでしょ?」

「初めまして。赤司征十郎です。今日は母の代わりで」

「あぁ、赤司さんのところの。お隣さんだものねぇ」

「いや、あの、彼氏じゃ」

「さ、時間なくなっちゃうわよ。さんが待ってるわ」



結局、訂正をする前に赤司君に背を押される形で病室へ向かう。文句を言いたくても藪蛇のような気しかしなくて何も言えずじまいだ。
落ち着いて考えてみれば、確かに否定はしてないんだけど、肯定もしてないのだ。後でいくらでも弁解可能だ。



「姉さん、赤司君がお見舞いに来てくれたよ」

「こんにちは」



念のため、と宛がわれた個室のドアをノックしてから開ける。



「わざわざありがとう。あーやっぱイケメンいいわぁー……」

「姉さん……」

「これ、母からです。よかったら食べてください」

「本当、何から何まで。お礼を伝えてもらってもいいかしら?」

「はい」



姉さんはいつも学校の様子を聞きたがり、今日は赤司君もいることもあってか、部活動について聞いていた。おかげで私よりも赤司君にずっと喋らせてしまった。
もちろん赤司君は嫌な顔一つせず、にこやかに話してくれた。
それにしても、姉さんがこんなにバスケ部に興味があるとは知らなかった。このことは、帰り道、赤司君にも聞かれた。姉さんは学生時代、バスケ部どころか、運動部ですらなかった。多分、自分とは真逆の人種に興味があるのだろう。
とにもかくにも、随分と姉さんは満足したようだった。イケメンぷまい、とニコニコしてた。少し気持ち悪い。



















































災難は、次の日登校してから降ってきた。
いつも通りに教室に入って、カバンを置いた途端、周りをぐるりと女子に囲まれたのだ。
矢継ぎ早に飛び出してくる言葉のほとんどは聞き取れず、何とか断片を繋ぎ合わせてみれば、昨日のことについてだった。曰く、「赤司君とどういう関係なの?」である。
どうやら、昨日一緒に下校したことと合わせて、病院に向かう途中の私たちを目撃した人がいるらしい。別におかしくもなんともない。病院へは大通りを通るし。学生の集まるショッピングモールだってすぐ近くだ。
問題は、既に登校して絶賛朝練中の赤司君に先に聞いた子がいて、その子曰く、赤司君はにこやかに笑って明言を避けたのだそうだ。面倒なことを。そして私がどんなに否定をしても大して信じてもらえない。
何より、朝練が終わって教室にやってきたさつきちゃんが人の山を解消してくれたのはよかったのだけど、それだけで、さつきちゃんは私の援護にまわってくれなかったのだ。後で二人になった時に聞けば、赤司君から聞かされたらしい。昨日私に言ったことを。それを聞いて、さつきちゃんは赤司君の応援をすると決めたらしいのだ。
どうにも理解し難い。
応援するという割に、さつきちゃんは何もしない。何か裏がありそうなのだけど、そんなに疑心暗鬼になるのは疲れるので、そのまま享受することを決めた。警戒するのは赤司君だけで十分だ。


もちろん、私はこの選択を後悔するはめになるのだけど、今気づくはずもない。気付いた時はだいぶ手遅れだったのだ。










                                To be continued......


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2013/09/01