LE MAT
さっさと起きろ、とのある意味非情な言葉と身体を揺さぶられる感覚で、重たい瞼を持ち上げた。私を起こした本人は、私に気を止めることなくカーテンを開けた。眩しい光が一気に部屋を明るくする。
「……まだ6時なんだけど」
「目が覚めたんだ」
いつもそうだ。私がどんなに早く目が覚めても、その時に一緒に起きようとしないくせに、自分が起きたときはそれを私に強要する。
「まだ眠いよ。何時に寝たと思ってるの」
「覚えているはずないだろう。大体、先に落ちたのはだ」
原因はお前だけどな、とは心の中だけで抗議して、仕方がないから着替えようと服に手を伸ばした。ら、何か左手に違和感を感じた。
薬指を締め付けている銀色に光る輪っか。見覚えがない。
「、どうした。早くコーヒーを……あぁ」
動かなくなった私に気付いた奴が声をかけてくる。私が凝視している先を見ると、得心のいったように小さく笑ったようだった。
「はそういうのが趣味だろう」
顔を上げた私に、小さく笑い、自分の左手を振って部屋から出ていった。その薬指には、同じものが嵌っていた。
確かに、そう。間違ってはいない。至ってシンプルで、それでも存在を主張するデザインは好みだ。けれど、こういう趣味に染め上げたのは他でもない、奴だ。もっと昔から、奴は私が身につけるもの全てを自分の好みに操作してきた。少しでも自分の趣味にそぐわなければ問答無用で脱がされた。また、奴から送られる一切のものも、奴が私に身につけさせて満足できるものばかり。いつの間にか、奴の好みがそのまま私の好みになるようになった。何故って、それが一番安全だったからだ。
自分で私をそういう風に変えたくせに、発言は全てまるで私の好みを尊重したかのような言葉だ。昔の私も馬鹿だった。「俺色に染めてやるぜ」を地でいく人がいるだなんて、想像もしなかった。完全な失態だ。
黙って言われたようにコーヒーを入れ、奴の前に置く。そのまま隣に腰を下ろした。
「眠い」
「寄りかかっていいよ」
そう言って奴は私の頭を自分の肩に寄せた。
寝させてくれるなら、黙って寝かせてくれればよかったのに。
「一時間だけだからね」
今日は日曜なのに。もっとゆっくり休ませてくれてもいいじゃない。
征十郎の、馬鹿野郎。
To be continued......
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2012/06/05