EX.About the guilty feeling which I decided.












私は一応、10歳以前の記憶は無い・ということにしてある。というのも、その方が都合がいいからだ。最初に拾ってもらったときに、戸惑いながら何も知らぬ存ぜぬを押し通したのがきっかけだ。というよりも何も話さなかったんだけど。しゃべるとボロがでそうだったし。余計なことを言うのは後に面倒になりそうだった。
状況が状況だったので、覚えていないというのはすぐに納得された。だから、川上の村のことを聞かれても「わからない」が通った。たまに揶揄されることもあったけど、全然気にしなかった。気にできなかった。まぁ、そんな余裕がなかったのだ。夢でもないし、帰れるまでここで生きていくと決めた。

この設定は、忍術学園に行っても変わってない。変えられるはずもない。
この設定を知れば、全員申し訳なさそうな顔をしてくるのは心が痛むが、それ以上聞いてこないのが利点だ。しかし、五年生になってから、1年は組のきり丸には仲間認定でもされてるのか、見つかれば非常に懐かれる。きり丸の姿を見るたびに非常に罪悪感に苛まれるのだが、仕様がない。


最近、この設定にまつわるこんな話があった。















































ケマトメ先輩の手伝いをした後、少し遅れて食堂に入れば兵助たちが既に席ついていた。兵助と付き合うようになってから、少しは忍たま長屋に出てくるようになった私だが、兵助的には足りないらしく、話し合いの結果が『食堂で長く駄弁る』だった。まぁ、今日は遅れたけど。だからなのか、いつもは兵助しかいないのが、皆揃ってる。時間は、夕食よりまだまだ早い。



「明日、誕生日なの」



なんちゃって室町時代@。誕生日がある。確か私の記憶が間違ってなければ、だが、室町時代は元日に皆同じく歳をとる、ということになっていたと思っていたのだが。そう考えていた時、またふみが口を開いた。



「今回は勘ちゃん以外からもプレゼント貰えるって思ってわくわくしてるんだけど」



じとり、とふみに視線を向けられた。



さんも、もちろん、祝っていただけますよねぇ?」



祝いたくないわけじゃない。そもそも誕生日を覚えてないのだ、という弁解は三年前にしたし、最近実習で……っていうのは二年前だ。一年前はただただ、平謝りだ。そして今回。今言われるまで忘れてました。って言ったら怒られるだろう、な。



「……もちろん、お祝いさせていただきますとも」

「本当に? 私、今までに祝ってもらったことないんだけど」



そんなこと言ったら、私はこっちに来て以来誰の誕生日も(当日に)祝ったことないんだけど。ここに来る前だって、友達の誕生日を忘れてて祝わなかったことが多いのに。



「それに。私、今までの誕生日を祝ったことないんだけど。聞いても教えてくれないし」

「いやぁ……別に祝ってほしいわけじゃないし」



ただ単に、誕生日を言えないだけで。
もちろん、自分の誕生日は覚えてる。けど、設定的にはわからないことになっているのだ。……そう言えば、私はふみや兵助達に10歳以前の記憶がないという話をしたことがあっただろうか、反語。記憶にある限り、してない。親がいないこととかは知ってるだろうけど。
だとすると、非常に面倒くさい。そして、明日のふみの誕生日に水をさしてしまう。どうしたものか……。



「俺も、の誕生日知りたい」



いや、だから、空気悪くするよ。絶対。



「いいじゃない。減るもんじゃないんだし」



確実に気分が落ち込むと思う。どうしよう。でもいつかはきっと、言う日が来るんだろうし、でもその時も絶対気まずくしちゃうんだろうなぁ……。



「……覚えてない。私、自分の誕生日覚えてない。あんまり祝う習慣がなかったから、急に言われても出てこない」

「いや、アンタ。どんだけ言いたくないのよ」



あぁ、やっぱりダメだったか……。
ふみのテンションは、取調室の刑事みたいだ。カツ丼置かれたらどうしよう。そして、兵助の目に、私は弱い。あーぁ……。



「……知らないからね。私は絶対に悪くないんだからね。言わせようとするそっちが悪いんだからね」

「……何よ……言ってみなさいな」



あーぁ。この皆の期待した目。これを今から裏切るのか。そして、この人たちも私の設定に付き合っていただくことになるわけだ。申し訳ない。が、仕方ないのだ。私が生きるためだ。



「……ほら、私がケマトメ先輩のお隣に住む清水夫妻に養われている、って前に言ったじゃない。家族いないから。その家族が居なくなってしまった時に、精神的ショックによってそれ以前の記憶を綺麗さっぱり無くしてしまったらしい。ってお医者様が言ってた。だから、誕生日も覚えてない」



ほら、この固まった空気。どうしよう。
ふみや兵助たちがそんな顔をする必要ないのに。



「ほら、だからヤなんだって。こんなのいつ言おうがこうなるんだから……あーもうほらふみそんな顔しないで。ふみ悪くないから! 竹谷もそんな気まずそうな顔しないでって。そんな、ただ記憶がないってだけなんだから、そんな気にするようなことじゃないんだって」

「わ、私、それを知らずにはしゃいじゃって……」

「いやだから……。誕生日を覚えてないことなんて些細なこと……」

、ごめん……」

「兵助も?! そんな顔しないでよ……」



何回もこんなやりとりはやってるが、相手の哀しそうな顔っていうのは未だに慣れない。



「……思い出すってことはないのか?」



そしてこいつは遠慮がないな。隣に座る雷蔵に嗜められてる鉢屋を見る。
その問いには、否、だ。私がここにいる限り、『記憶が無い』以外に良い案があるなら別だが、この設定を無くす気はない。



「……さぁ。まぁ、でも。……もし記憶が戻ったら、私はここからいなくなるだろうけど」

……それは本当か? 何で?」



兵助にじとり、と見られる。
何で、ってそりゃあ、記憶が戻った、ということは設定が必要なくなったってことだから、平成に戻るってことだろう。きっと。まぁ、そのことを兵助たちに言うことはないんだけど。



「……それは……その、記憶が戻ったら、例えば親類のいる場所とかわかるかもしれないし。清水夫妻に今はお世話になってるけど、そしたらその家に行くかもしれないし。お世話になる家の意向とかあるだろうし……」

「それは、その家の言うとおりにするってことか? 結婚しろって言われたらするのか?」



またこれは……違う方向に話がいったな。兵助は少し被害妄想が強いような気がする。



「……いや、もしも話だからね、これ。そうとは限らないでしょ?」

「もし、そうなるなら、には悪いけど。記憶なんて戻らないで欲しい。酷いこと言ってるってわかってるよ。けど、俺のそばからいなくなるのは嫌だ」



ホント、何で兵助はこうも平然とこういうこと言えるんだろう。顔が熱くなってくる。こういう兵助には、どう返せばいいのか・それは学んだ、けど。
元々は誕生日の話だったはずなのに。
そして、何で誰も兵助に文句を言わないのか。いつもなら誰かかれかが行っているはずなのに。



「あー……その。だって、まぁ、一生一緒にいられるわけじゃないでしょ? そう言われても……」

「俺、と別れるつもり、ないんだけど」



言う言葉間違えた。向かいのふみが、馬鹿、と口パクした。あぁ、本当に。兵助の機嫌をさらに悪くしてどうするんだ。
すいません、と小さく口にする。けど、謝って欲しいわけじゃない、と返ってくる。本当にどうすれば。



「で、でも! ちゃんの誕生日、わかんないじゃ、いつ祝えばいいのか、迷っちゃうね!!」

「ほ、ホントだね。せっかくだし、ちゃんの誕生日祝いたいよなぁ〜。ははは」



見かねたのか、不破ちゃんと勘ちゃんが助け舟を出してくれる。けど、不破ちゃんは本当に悩み始めた。
鉢屋が「お前のせいだぞ」、なんて言って睨んでくる。



「なぁ、誕生日だけ思い出せないのか?」

「……記憶喪失ってそんなにお手軽だったかな」



話を逸らされたことに、兵助はまだ不満なようだ。ここで何とか挽回しとかなければ。
あぁ、そうだ。いいこと思いついた。



「……兵助、誕生日、いつだっけ」

「……俺の誕生日がどうしたの」

「どうせ覚えてないんだし、思い出しそうな気配もないから。兵助と同じ誕生日にしようかな、って、思い……まして……」



みるみるうちに兵助の顔が明るくなっていく。成功、したのかな。成功した、っぽい。竹谷は兵助に見えないように親指を立てている。



「……そうか……俺と同じ……」

「そ、そう! これなら忘れない、だろうし!!」

「じゃあ、これからずっと、二人で祝っていこうな」



ガシィ、っと手をを掴まれ、その勢いに、ただ頷いた。



「へーすけー、そーいうのは俺たちのいないとこでやってよー」



ようやっと、いつもの空気に戻った。
後日。
ふとこのやりとりを思い出し、清水夫妻に手紙を出してみたら想像以上に喜ばれた。









                             To be continued......








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長編に詰まったので、番外書いてみた。
誕生日を久々知と同じにしようとする、だけを書きたいのに、主人公が嫌な人間になりました。いや、でも元々変に利己的な面を強調して書こうとしてるので、いいのかな。いいことにしよう。








                             2011/09/13