Synergy









「私、五条の事好きかもしれない」
「どうした。まだ五条死んでないけど」

 五条も夏油も任務に出ていて、教室には硝子と二人きり。担任の夜蛾先生も先程私達に自習を告げて任務に行ってしまった。上級の呪術師は任務に引っ張りだこで本当に日々忙しそうである。硝子はとても希少な反転術式の使い手ということで、ほぼ高専から出ることは無い。対して私は、彼らに比べるとパッとしたものも無い三級呪術師である。雑魚だ。雑魚故に暇なのだ。一人で任務にも行けないし。

「いやそうだけどさ、何で死んでる事前提?」
「死んだら思い出が美化されるってよくあるから、それかなって」
「……まぁそういうことはあるかもしれないけど、とりあえず今現在五条死んでないからさ……」

 硝子に言わせれば、「たとえ死んだとしてもあいつを好きだと思うことは無い」とのことだ。ちょっと前までの私なら大いに頷いていた。今は五条に死なれたら寂しいなくらいは思っているので、本当に人間どう転ぶかわからないものだ。

「五条ってさ、性格っていうか人間性がクソだけど顔はいいしスタイルもいいし頭も悪くないし……本当に性格以外はパーフェクトじゃん。ついでに強いし」
「性格クソなら全部台無しだろ」
「いやまぁ、私もそう思ってたんだけどもね……」

 つい先日、珍しく私と五条が同じ任務に就いた。というか、任務地が激近で先に任務を片付けた五条が私に合流したのだ。「秒で終わったから、スイパラ行こうぜ」飄々とした態度でやってきた五条に誘われるも、こちらはまだ終わっていない。それを伝えると、五条は進んで私の任務に手を出す気満々だった。勿論任務は私ともう一人の呪術師で事足りるものだった。ただ、どうにも五条は私とペアだった呪術師のことが嫌いだったらしく、とても機嫌が悪く何度も私に「あいつに近づくな」「あいつと話すな」「あいつを見るな」と言いつけた。子供の癇癪と同レベルだが、五条は自分の懐に入れた人間はもう自分のものだと思っている節があるし、少しだけ甘くなる。……ような気がする。
 何だかそうやって一生懸命自分のもの(ではないとしっかり言い含めておきたいが)を守ろうとする五条が可愛らしく見えてしまったのだ。

「疲れてるんだよ。今日はもうゆっくり休みな」
「まぁそういう反応になりますよね……」

 私自身何度も疑ったけれど、以降五条を見る度に何だか胸が締め付けられる感覚を覚え、何なら顔に熱が集まってきている気もする。「風邪じゃない?」それはもう私も思ったから熱測ったけど全然健康体でした。

「何となく五条が私に優しいように感じてて……」
「末期じゃん。目を覚ましな。五条だぞ」
「いやうん、そうなんだけど……。でも別に付き合いたいとかそういうのは無いんだよね」
「あ、そうなの?」
「うん。別に伝える気もないし」
「じゃあ何で私に言ったの」

 うーん、と腕を組んで天井を見上げる。
 本当に、今私は五条とデートしたいとかキスしたいとかそうは思っていないのだ。確かにわざわざ硝子に言う必要もなかった気がする。別に恋のライバルになるわけでもないし。

「わかんない。五条が好きかもしれない、って口に出したかったのかも」
「ふぅん? ま、いいけど。本当に付き合いたいとかじゃないなら下手に口にしない方がいいかもね」
「何で?」

 硝子はポーチからタバコとライターと携帯灰皿を取り出した。そう言えばファブリーズの残量が少なくなっていた気がする。任務帰りに買ってきてもらうように頼んでおこうか。携帯のメール画面を立ち上げて電話帳から五条の名前を探した。

「だって、まんまと五条の思惑にハマってんじゃん」
「……え?」

 五条にメールを打とうとした手が止まった。