思えば結構長い付き合いをしているものだ。この変人と。……変態と言わないのは私のほんの少しの良心だ。
まぁ、彼は基本人畜無害だ。……彼女さえ絡まなければ。真実私と岸谷君はいい友人といえるだろう。
「まぁ、君は僕が理路整然に物事を考えてるとか言うけど、実際はそんなことないと思うよ」
「そこまで高く評価を出したつもりはなかったんだけど……」
セルティが仕事へと向かった後、まっすぐ岸谷君の家に私は向かった。今回の手土産は紙切れ一枚。
今はテーブルの上に置いてある。
「ようやく覚悟決めたんだね」
「覚悟……ね。そこまで必要だったのか。まぁ、でも、決めたよ。臨也には言ってないけど」
中々言い出せないのだ。どうしても。ここら辺、どうにも素直になれない私の性格に我ながら呆れる。そこで岸谷君に相談でもしようと思ったのだが。
「臨也、きっと狂喜乱舞するよ。この紙渡せば」
「いや、渡す必要はないよね。もう臨也の欄は完璧に埋まってるし……。提出するだけ……」
「役所にね。これでもうじゃなくなるんだね」
「……そうだね。折原……似合う?」
「さあ。臨也なら似合うって言うと思うよ」
出されたコーヒーを飲む。今日は苦いコーヒーでも飲める気がした。何となくさっきまでセルティと話してた内容が思い出されて、胸が甘酸っぱく締め付けられる気がするのだ。甘さを誤魔化したい。
「前にも言ったっけ? 臨也のことだから、この紙が家から無くなってることくらい気づいてるはずなのに、何にも言ってこないの。ただ単にいつも通り結婚結婚って言ってくるだけ。何企んでるのかな、って思って……」
「いや、初耳だけど。企んでる、っていうか……そもそも臨也はちゃんにだけは誠実なはずだよ。今までもずっとそうだったでしょ?」
「外堀を埋めに埋めて逃げられないようにしてきたのに?」
「高校生の時は余裕がなかったんだよきっとね」
まぁ、確かに。大分歪んではいるけど、私に対して酷いことはしてこなかった。それは本当だ。今更疑うところじゃない。高校時代、それが分かった時には本当に驚いた。そして、臨也を見る目が変わったのだ。……駄目だ。さっきからどうにも頭の中が乙女思考で埋め尽くされつつある。
「……私、思ってたより臨也のこと好きなのかもしれない……」
「閑話休題かい? まぁ、そんなこと、ちゃん以外気づいてたと思うよ。だから誰も臨也との結婚を反対しなかっただろ?」
「そういえば……そうかも」
「どうせ反対したって、ちゃんは臨也と一緒になる道を選ぶとみんな分かってたし」
「……それってかなり恥ずかしいよね……」
「まぁね」
⇔
「また来たんだって?」
「臨也さ、本当に独占欲っていうの? 強すぎると思うよ」
「来たんだって?」
「……うん、来たけどさ」
新羅は諦めたようにため息をついた。
「ちゃんが何を話したかは本人に聞いてくれよ。私から言うことじゃない」
「を気安く名前で呼ばないでくれる?」
前にもこんなやり取りした覚えがあるな、と新羅は遠い目をしながら思った。臨也はソファに座ってコーヒーを飲んでいる。
「もう新羅の口からが何て言ってたかは聞かないことにしたから。どうせ聞いても答えてくれないだろ」
「じゃあ何しに来たのさ」
「……別に? 、最近ここに来すぎでしょ。俺の扱いがあまりにも雑になってきてさぁ」
「そういう不満も本人に言ってよ」
そろそろ臨也のメンドくささが顕著になってきたな、と新羅が感じてきたところで、臨也が急に笑い始めた。くつくつと笑うその顔は、悪巧みしている顔そのものだろう。
いきなりの変化に新羅はドン引きした。聞くのも嫌で放っておくことにした。
END
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約二年ぶり……?
次は高校時代に一度遡ります。臨也との思い出話(笑)。
2014/10/09