「お前、臨也と結婚するんだって?」
休日にふらふらと池袋を散歩していたら、高校時代の友人に遭遇した。
「門田君、それ、誰から聞いたの?」
「誰からって……臨也が結婚するって噂が流れててな。それなら相手はしかいないだろ」
「……結婚するとはまだ決まってないよ」
最近、臨也の部屋に行けば毎回毎回耳にタコができる程プロポーズを聞かされる。どうしても私の口から返事を聞きたいらしい。
指輪だって外してないんだし、そういうところで気づいてほしい。いや、気づいているんだろう。機嫌いいし。でもだからこそ、私から言質を取りたいんだろう。
本当に厄介で面倒な人だ。なんであんな人を好きになったんだろう。高校時代の私、馬鹿じゃないのか。
「……立ち話もなんだし……どっか座ろうか」
「そうだな」
公園のベンチにとこに並んで座る。門田君が缶コーヒーを買ってきてくれた。
「で、は何で悩んでるんだ?」
「……タイミングかな。もう、臨也に返す言葉は決まってるんだけど。だいぶ前にね」
臨也が口を開けば止まることがないから、逆に私は口を閉じたままだ。実は臨也には私に返事させる気がないんじゃないか、って思い始めてきた。
「お前ら長いからなぁ……臨也がそろそろ、って考えんのはわかるんだが」
「いや、私もね。あぁ、言ってきたな、とは思ったよ。でも、時期がちょっと」
「あぁ、卒業して赴任したばっかだもんな」
「うん。まぁ返事したところですぐそうなるか、っていうのは別だとは思うんだけど」
そうもいかない気がする。だって、相手は臨也なのだ。
この間、臨也が不在の時に、婚姻届を見つけてしまい、臨也の本気を感じて少し寒気がしたのは秘密だ。
「でも、そろそろ潮時だね。臨也ってあんまり気が長いほうじゃないし」
「も素直になる時が来たってことか」
「……素直じゃないとは思ってたよ、そりゃあさ。でもだって、門田君だって認めたくないでしょ? 自分がいつの間にか臨也のことを好きになってて、ずっと一緒にいられたらいい、なんて思うようになっただなんて。私、この気持ちを認めるのに3年は費やしたんだから」
「あー……それは、まぁ。わからんでもないが……」
分かってた。自分が臨也の事が好きでしょうがなくなったと気づいたとき、憤死するかと思った。馬鹿じゃないのかと思った。
全部臨也の思惑通りで、あの人の手のひらで転がされてしまっているのならよかったのに。でもこれは、明らかに臨也の思惑を超えた範囲での気持ちだ。臨也にとっては嬉しい誤算なのかもしれないけど。
「いいんじゃないのか? これで晴れて本当に両思いなんだから」
「……これだから門田君はモテるのに彼女が長持ちしないんだよ。両思いだったら全てが解決するわけじゃないんだから」
両思いならさっさと結婚するべきだとでも思ってんのか。それなら私は今頃折原にとっくの昔になってるつーの。
鞄の中に入れていたケータイが震えた。
「ごめん。呼び出しだ」
「臨也か?」
「そんな毎日毎日臨也から連絡なんて来ないよ。元々、臨也ってあんまりケータイに連絡寄越さないし」
用があるなら、直接やってくる。そういう人だ。高校からずっとそう。だから私は、定番の、お休みメールとか、会えないときのメールっっていうのを経験したことがない。したいとも思わなかったし、そもそも私もしなかった。
「じゃあ、またな」
「うん。それじゃ」
⇔
「と話したんだって?」
「いきなりなんだ」
ふらりと現れた臨也は、開口一番、自分の恋人の話を持ち出してきた。特に目的もなく一人歩いていた門田は足を止める。
「何を話したのさ。、相変わらず秘密主義だしさぁ」
「……お前との結婚についてだよ」
「あーそれ。……ちょっと今回はが強情なのか、全然話が前に進まないんだよねぇ」
「急ぐ話でもないだろ?」
まだ23だろうに。
言われた言葉に、臨也はにっこりと人好きのする笑みを浮かべた。
「善は急げだよ、ドタチン。これでようやっとを俺だけのモノに出来るんだから。逃げられちゃかなわないんだよね」
「お前……」
「まぁいいや。これ以上聞いても何も出てこなさそうだし。の友人たちってみんな口堅くって嫌になるよね」
ひらひらと手を振って臨也は人混みの中に消えていった。
「……あいつ、不安なのか」
門田京平の呟いた言葉も、人混みの中に消えていった。
END
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久しぶりの更新はドタチンにお願いしました。
最初は臨也の妹達にオファー出そうと思ったんですが、セリフ難しくて断念しました。
2011/10/09