今日は土曜日だから、仕事は休み。
 久しぶりに昼間の池袋を歩く。普段は新宿に直行だから、池袋の街が久しぶりのような気がする。
 池袋サンシャインとか久しぶりだ。



 「あ? じゃねぇか」

 「あ、平和島くん。久しぶりだねぇ」



 しばらく歩いてると、後ろから声をかけられた。振り向けば、見馴れたバーテン服。池袋で決して関わっては
 いけない人間。自動喧嘩人形。だとか色々呼び名はあるけれど、高校時代の同窓生である平和島静雄くんが立
 っていた。



 「仕事中?」

 「いや。今は昼休みなんだ。……そうだ。昼まだならどっかで食わねぇか?」

 「あぁ、いいね。そうしよっか。マックでいいかな?」

 「ああ」



 というわけで、二人で連れ立って近くのファーストフード店に入る。
 注文して席につけば、平和島くんが煙草に火をつける。



 「あ、煙草だめだったか?」

 「いや、別にかまわないよ」

 「悪ぃな」



 しばらくモフモフキュイキュイと食べてると、平和島くんがおもむろに口を開いた。



 「……あのノミ蟲野郎と結婚するって本当か?」



 飲み物のカップが平和島くんの手の中で悲鳴をあげてる。中身が入ってなくてよかったと思う。
 臨也にしても、平和島くんにしても、私の周りには正直な人ばっかりだ。



 「もう平和島くんまで聞こえてるの? 流石の影響力としか言えないね」

 「セルティと前に会った時言ってたんだよ。が心配なんだとよ」

 「セルティは優しいからねぇ」

 「で?」



 平和島くんの表情は厳しい。
 そんなに臨也が嫌いなら話題にしなきゃいいのに、やっぱり私はいい友人を持ったようだ。



 「確かにプロポーズはされてるけど。別に結婚すると頷いたわけじゃないよ。将来的な話するなら多分結婚す
 るんだろうけどね」

 「いいのか?」

 「いいも何も。あの人の中じゃ決定事項だよ」

 「ノミ蟲なんかどうでもいいんだ。はそれでいいのか?」

 「……悪くはないって思ってる。高校時代と違って、正直言えば臨也のこと好きだし。自分でも信じられない
 んだけどね」

 「全くだな。……けどノミ蟲もだけは格別の『特別』扱いだったからな」



 結婚してもお前に害は一つもないだろうな、と平和島くんは淡々と言った。
 珍しい。平和島君が臨也に関することで感情を爆発させないのは。



 「まぁ、俺だったら絶対に臨也と結婚なんかしねぇけどな」

 「その前に付き合いもしないでしょ?」



 そりゃそうだ、と言って平和島君は笑った。



 「最近、友達に会えば会うほど結婚を意識させられるよ。これも臨也の企みなのかなぁ」

 「あいつウゼぇな」

 「……ま、決まったらお知らせするよ」



 平和島くんは呆れたような顔をして、「そう待ちそうにもねぇな」と言った。













 ⇔















 「いーざーやぁぁぁぁぁぁっ!!」



 果たして、道路標識はこんなに飛んでいいものなのだろうか。最早役割を越えた働きをしているそれの標的に
 なっている男は軽々と避けると、不敵に笑って口を開いた。



 「随分な御挨拶だね、シズちゃん」

 「俺には平和島静雄っつう名前があんだよ!」



 周りを歩いてた人々遠巻きに離れていく。どんな馬鹿でも、いまここに近付いたらどうなるか想像に難くない
 ためだ。



 「今日は別に喧嘩をしに来たわけじゃないんだ。まぁ、シズちゃんに用はあるんだけど」

 「あ゛ぁ゛?」

 「単刀直入に言えば。に近付かないでよね。話によればこの間一緒にご飯食べたそうじゃない」

 「友人と食べて何が悪い」

 「……ホント、の友人関係に口出しとかするつもりないけど、シズちゃんだけはやめてほしいよなぁ」



 臨也は眉を寄せて吐き捨てるように言った。



 「その内に嫌われるぞ」

 「嫌われないよ。そういう事言わないでくれる?」



 は俺の事好きだから。そう言った臨也に静雄は米神がひくひくと動いている。
 周りを歩いていた人々は、いつもと違う二人の様子に首を傾げる。いつものように破壊音が聞こえないのだ。



 「プロポーズしてるそうじゃねぇか」

 「そうだよ。シズちゃんにも聞こえてきてるんだ? っていうかとそんな話したの」



 虚を突かれたような顔をした後、臨也は可笑しそうに顔をゆがめた。



 「に相談された? 訳でもないか。どう? は結婚する気になってた?」

 「俺が言う事じゃねぇよ」

 「ふぅん」

 「てめぇが直接聞けばいいだろ」

 「新羅もそう言ってたよ。……でもねぇ、今はその時じゃないんだ。もう少し待たないと」

 「はぁ?」

 「あぁ。シズちゃんにはわからないかー。だって彼女とかいないもんね!」



 ガキョ、と音がした。次の瞬間、臨也に向かって白い物体が飛んでいった。ガードレールだ。
 臨也はもう一回笑うと、軽やかなステップで駈け出して行き、ガードレールを避けてついに姿は見えなくなっ
 た。



 「ちっ。またさっさと逃げやがって……」















                             END




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 単純に言えば、【押してダメなら引いてみろ】なんですけど。
 臨也がやるとどうにもそのままに受け取れない。何か企んでそう。
 この人ってどこまで捻くれてるんですかね。


 拍手にてラブコールが多いのでついつい書いちゃいました。





                            2010/08/19