探偵たちの鎮魂歌
未だスーパースネークに並んでいる。一向に打開策は見当たらない。何かと理由を付けて子供たちを列から離しては順番を譲り続けているが、そろそろネタ切れだ。
「腹減ったなぁ」
「博士がいたらダジャレクイズでヒマがつぶせるのにね」
「ですよねぇ」
子供たちの会話を聞いた蘭ちゃんは少し考え、
「じゃあ、今日は私がクイズ出そっか」
「え! 蘭さんがですか!?」
光彦君が驚くと、蘭ちゃんは「ダメ?」と訊いた。
「ううん。出して出して!」
「しょうがねぇ。答えてやるか」
「じゃあいくよ。ジャジャーン! ミラクルランドクーイズ!」
蘭ちゃんが阿笠博士の真似をして人差し指を突き立て、子供たちはアハ……と苦笑いをした。その後ろで哀ちゃんがそっぽを向いている。
「みんなが一度は乗ってみたいスーパースネーク。さて、探偵団の皆のうち、このアトラクションに一番ピッタリなのはだーれだ!?」
子供たちはいっせいに考え始め、歩美ちゃんが「わかった!」と声を上げた。
「答えは哀ちゃんでしょ!」
「どうして?」
蘭ちゃんが訊ねる。
「ヘビさんが好きそうだから、哀ちゃん」
哀ちゃんは歩美ちゃん達の方をチラリと見て、「嫌いよ、ヘビ」と答えた。まぁ、あんまりヘビ好きって女の子はいないんじゃないかな。私は好きだけど。好きだって言ったら、降谷先輩にちょっと引かれたもんなぁ、高校の時。蘭ちゃんが「ブッブー!」と胸の前で腕を交差させてバツを作る。
「じゃあボクですね。スーパースネークと一緒で、いつも待たされてますから」
「何だよそれ」
元太君が言うと、光彦君はジロリと睨んだ。
「朝、学校へ行くとき、元太君ちに迎えに行っても、いつも待たされますからねぇ」
元太君はエヘヘ……とバツが悪そうに笑った。
「それもハズレ! 元太君は?」
「んー、オレかなぁ……ヘビはウナギに似てっから。オレ、うな重大好きだしよ」
元太君の答えに、蘭ちゃんは「惜しい!」と指を鳴らした。
「うな重が好きな元太君は、どうなってる?」
「どうなってると言われても……」
「お腹が空いてるみたいだけど」
光彦君と歩美ちゃんが元太君をまじまじと見つめていると、そっぽを向いていた哀ちゃんが「なるほど」と呟いた。
「スーパースネークは超ヘビー、つまりとても重たい……で、体重の重い小嶋君が正解」
「ピンポーン!」
得意げな笑みを浮かべる蘭ちゃんに、子供たちは顔を見合わせて苦笑いした。
「蘭さんだけは違うと思ったんですけど……」
「結局ダジャレじゃんか」
子供たちの声が聞こえてきて、蘭ちゃんは恥ずかしそうに笑った。時折子供というものは辛らつになるのだ。
「次お姉さんが出してー!」
ほら、絶対振られると思った。何も考えてないから笑顔で誤魔化しながら頭を回転させ始めた。先輩、早く解決して迎えに来てよ……。
⇔
馬車道……日本で最初にガス灯がつけられたことで有名だ。
さて、事件の資料を手に入れて読んだはいいが、正直手詰まりだった。
4月4日にこの場所で現金輸送車が襲われた。犯人は拳銃を所持しており、警備員が一人撃たれている。事件の犯人は現在指名手配中。この事件に関しては、資料以上にこの場から得られるものはないだろう。
その時、安室の所持する携帯が鳴った。依頼人から渡された方だ。通話ボタンを押す。
『驚きましたよ安室探偵……。まさかあのヒントだけでその馬車道にたどり着いてしまうとは。俄然期待が持てそうです』
「そんなことを言うために電話してきたんですか?」
『随分切羽詰まったような声ですね。安心してください。貴方の人質は無事に園内で遊んでいるみたいですよ』
「……貴方が解いてほしい事件は、現金輸送車襲撃事件、というわけではないのでしょう」
『素晴らしい! 第二のヒントです。Y・O・U・C・R・Y……「YOU CRY」です。健闘を祈りますよ』
切られた電話に思わず舌打ちが出た。
今度は自身の携帯にメールが入った。4月4日の怪盗キッドに関する報告だ。4月4日に深山美術館からキッドがダイヤを盗んでいる。
ふぅ、と一つ息を吐いた。まずは依頼人からのヒントだ。
YOU。この土地であることを考えれば、横浜海洋大学の事を指しているとして間違いないだろう。CRYについてはまだわからないが、とりあえずは横浜海洋大に行ってみるしかないだろう。
携帯に表示された時刻を見て、また舌打ちが出た。
END
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2018/06/22