十三夜に曇りなし





デマンドの傍にいるといくらか体調がマシになると気付くのにそんなに時間はかからなかった。
だから、だとは言いたくないけど、デマンドから伸びてくる手に抵抗しなかった。表向きは拒む力がないような振りをして。
触れてくる手はいつも暖かいし、無理やり連れ去ってきたくせに、優しい。

学生さんの記憶にあるデマンドは、もっと傲慢で人の話も聞かず、自分の思うがままに振舞う。こんな風に人に愛を囁くなんて、思わなかった。
ピッタリとくっついた身体から、聞こえていなかった心臓の音が急に聞こえてきた。顔を上げると、冷たい色をした瞳と目が合う。寒色だけれど、その奥にともった熱に、流石に気付いた。



……」



目が合ったまま押し倒された。
このまま見つめ合っていたら、気付かれてしまうのではないか。いつまでも言葉に出来ない私の感情に。
それはいけないことだと、目を閉じる。それをどう捉えたのか、デマンドは距離を無くしてきた。
今更キスを拒絶することはないけど、そのまま下がってきた唇にぎくりと体が震えた。



「……言ったばかりじゃないか。既成事実でも何でも作って、お前の逃げ道を塞いでやる、と。いくらでも抵抗するがいい。今のお前にどれ程の力が出せるか知らないが……」



言ってる内容と表情が噛み合っていない。そんなにも苦しそうな顔をするならやめればいいのに。
あぁでも、このまま黙っていれば、この人のモノになれるんじゃないだろうか。ふいによこしまな考えがちらついた。言えないなら、行動で示す分にはいいじゃないか、なんて。ダメに決まってる。けど、今なら。雰囲気に流されたとかそんな言い訳が出来そうな気がする。
そう考えたら、さっきまで伸ばせなかった手が動いた。ゆっくりとデマンドの背中にまわす。デマンドの目が驚きに見開かれるのを見て、何だか胸がすく思いだ。いつもいつもデマンドには好きにされていたから、ちょっと仕返しが出来た気がする。



「これが限界、かな」

「……それでいい」






































一切の抵抗を見せないが纏う衣服を全部はぎ取って、デマンドも自身の服を脱ぎ去ってしまってから再びに覆いかぶさった。しっかり閉じられた瞳に、おもわず眉が寄る。彼女の闇を連想させる黒い瞳はデマンドのお気に入りの一つだった。きっと今こちらを見るように言っても無駄であるだろうから、もう少し理性が崩れてしまうまで待とう、とデマンドは内心でほくそ笑んだ。
白い肌に口づけたことは何度かあれど、ドレスから見える範囲までで、こうして胸や腹に触れるのは初めてだった。ゆっくりと時間を掛けて長く愛してやりたいところではあるけれど、の体調を考えると、そう長引かせるのは苦しませてしまうかもしれない。そう気遣う気持ちは生まれるのに、どうしても今更この行為をやめようとはかけらも思わない自分にデマンドは自嘲した。
胸や腹の至る所に口づけては跡を残していく。その度にが体を震わせつつも声を出さない様に抑える姿が何とも扇情的に見えて胸の奥が疼いた。



「声を堪えるな……」

「ひ、や、ぁだ……」



唇を噛み締めていては傷になるだろう、と親指で唇をなぞってから口の中に押し込んだ。舌に触れて、漏れた声を聞いた瞬間、荒く唇で塞ぎにかかった。苦しそうに呻いているのか、それでも押してくる手に対した力は入っておらず、デマンドはの唇を貪り続けた。歯のエナメル質をなぞってから奥に逃げていた舌を吸い、絡ませた。



「う、っく……ん」



が呼吸をしようと口を開けるたびにそれを抑え込んだ。ようやく離した時には必死に抵抗してたであろう腕が力なく白いシーツに投げ出されていた。ただ白い腕に欲が出てきて、赤く跡をいくつか付けた。唇が触れるたびにから小さく漏れる声に口角が上がる。



「苦しいか」



問いかけても、は荒い呼吸を繰り返すばかりで返答は返ってこない。デマンド自身、特に求めてたわけではなかったので、気にすることなく薄い腹に指を埋めた。ゆっくりと撫でながらたまに口づけて跡を残す。引っかかりを覚えることなく、の秘部に辿り着く。



「怖いか」



やめるつもりはないが、と触れた瞬間目を開けたとしっかり視線を合わせた。ゆっくりと反応を見るように裂け目を撫でると、は目をすがめて声を噛み締めた。
声が聞きたかった。



「苦しいなら苦しいと、怖いなら怖いと言え。黙って堪える事だけはするな」



声が聞ければ正直何でもよかった。例えそれが「嫌」でも「やめて」だろうとも。もうすでにやめる気はさらさらないのだから、関係なかった。何せ、口で何と言おうと、初めにが受け入れたのだから。それに、は気持ちを口に出してくれないから、負の感情であろうと口に出してぶつけられるのなら。



「入れるぞ」



濡れぞぼった穴に中指を入れる。狭く締め付けてくるが、まだ痛みを感じてはいない様だった。



「あ、ぁっ」

「……力を入れるな。そうだ……そのまま……」

「やぁっ、だ、め」

「何も堪えるな。呼吸を止めるな」



中の壁をゆっくりと撫で上げれば、はその度に体を震わせた。反応を見ながら、解す様に指を動かす。ふと顔を見ると、は顔を横に逸らして一切を見ない様、目を閉じていた。どうせならしっかりと視線を合わせてもらいたいし、今自身の体がどうなっているのか見てもらいたいという思いもあったけれど、流石に酷かと思い直して、とりあえず今回は何も言わないことにした。
暫くそうやって指を出し入れしている内に、一本ずつ指を増やしていき、最終的には三本の指を難なく飲み込めるようになった。息も絶え絶えながら、一切の抵抗をしないに、デマンドはもう笑みを隠さなくなった。



。……挿入るぞ」



固くなった自身をひたりと宛がえば、見なくてもソレが何なのかはわかったらしい。シーツを掴む手に力が篭った。
の白く細い腰をしっかりと支えて逃げ出せない様にし、ゆっくりと腰を進めた。



「っ……力を抜けっ」

「や、あ、あ、ぁあ!」



今にも泣きだしそうな声を上げる口を唇で塞いで、深く口付ける。そうして意識を少しずつ逸らしながら腰をゆっくり進めた。指先が赤くなるほど強く握られているシーツにすら嫉妬を覚えて、指をほどき、自らの背に回させた。すぐに爪を立てられたが、痛みは気にならなかった。
はすでに音にならない声をそれでも上げる為か、はくはくと口が動くだけ。ゆっくりゆっくりと腰を進めて、奥に到達したときにははぽろぽろと涙をこぼしているばかりで一つも快楽を感じていないようだった。しかしデマンドに慰める言葉は浮かばないし、それどころかただ黙って耐えているその様子が何より愛おしく見えていた。手に入ったのだと実感できた気がした。

いくらか呼吸が落ち着いたのを見て、止めていた腰を動かし始めた。水音とが上げる声が混ざる。胸に唇を落としながら指で震える突起を弄れば、は甲高い声を上げた。その声は甘く、痛みが快楽に変わったようだった。その内に元々狭い中がもっときつくなってきて、ついにはひときわ大きく体を震わせ、そのまま意識を飛ばした。体力も限界だったのだろう。すっかり目を閉じて眠っている。白い頬を撫でるデマンドの手は、これ以上ない程愛しげで優しいものであったことが知るのは、大分後の話になる。

一通り眠りについたを撫でて、自嘲気味に笑いながらデマンドは己が果てる為に律動を再開させた。





END






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めっちゃ時間かかりましたすみません。
本編後ではなく、本編中のどこかであったかもしれない話で書かせていただきました。
イメージですが、デマンドは経験者。一応王族ですし。


リクエストありがとうございました。


2018/03/31