諦めきれぬと
出来るだけ早く、手に入れられるならそれに越したことはない、とずっと思い続けてもう5年は経った。
このまま誰のものになる可能性も無く、ただ黙って俺のものになる日が来るのを待つでもよかったのだけど、そうはいかなくなった。
の口から、やけに一人の男の名前が出てくることが多くなったからだ。その男は、同じ研究室の同僚らしく、自身はただの仲の良い男友達だと思っているらしいが、聞かされる情報を元に考えれば、好意を寄せられていると簡単に分かった。いつがそれに気づいてしまうか。そう思ってしまうと、いてもたってもいられなくなった。いつかを待つなら今でもいいじゃないか。そうして指輪を用意したはいいが、任務が入ってしまうのはしょうがなかった。
だから、に「任務から戻ったら聞いてもらいたい話がある」と如何にも思わせぶりなセリフを残した。
「ん、おっけー。じゃあ任務頑張ってね」と何も意識していない返答が帰ってくるのはいつもの事だったから、帰りを待ってくれているのだと信じた。
任務自体はそんなに難しいものでもなかったが、手間と時間がかかる面倒なものだった。任務は任務でこなしたけれど、ただずっと、は誰にもちょっかいをかけられていないか、それだけが心配だった。残念ながら任務中は個人的連絡を取ることが出来ないからの状況を知りえない。
⇔
「うーん……少し痩せた?」
2週間近くかかった。は3日会わないだけでも「痩せた?」と聞いてくるくらい、これは常套句だった。本人も何も考えていないで言っているのだろう。ただ出来れば、そんな言葉で出迎えを終わらせてほしくない。
「」
「うん」
俺が痩せたかどうかなんてどうでもいい話はやめさせると、席を勧められるが、断る。どうせすぐに場所を変えるつもりだ。
「ただいま」
一度目を瞑り、開いて見えたはいつもと変わりないようだった。
「うんおかえり。お疲れ様でした」
「あぁ」
結婚して一緒に暮らせば、こうしてが迎えてくれるのだと思うと、何が何でもそれを現実にしなくてはいけない。
「任務に出る前に、言ったこと覚えているか」
「……。話があるんだよね」
「あぁ。……出れないか?」
既に皿は空いているし、断られることはないと分かって聞く。ほんの少しだが、が構えたように見えた。もしかしたら「話」に何かしらの期待をしただろうか。それならいいのだが。
を連れ出して、あまり人気のない場所に向かう。別にどこでだっていいんだけれど、静かなところの方が声がよく聞こえると思った。
足を止めてと向き合う。はただ黙って俺を見ていた。
伝えよう、と決めた。が理解するまで何度でも。……何と言えばはっきり伝わるだろうか。好きだ付き合ってくれは駄目だった。「いいよどこまで?」と返ってきたときはまさかそんなことがあるのかと愕然とした記憶がある。
「」
は橋の欄干に背を預けて空を見ていた。この気負わなさ、意識されていないんだろうか。仮にも男と二人きりだというのに。
つい、握った拳に力が入った。
「ずっと、好きなんだ。結婚してほしい」
これならどうも勘違いされないだろう、と思った。
けれど、どうしたことか、の表情がちっとも変わらない。ただまっすぐこちらを見てくる。
例えば、少し顔を赤くしたりだとか、驚くだとか、困ったような顔をするだとか、考えられる表情の変化はあってしかるべきだろうに、ピクリとも動かない。
「…………」
まさか反応を貰えないとは思わなかったから、どうにも情けない声になってしまった自覚はある。だが、名前を呼ばれたことで、が反応を示した。肩をふるわせて、戸惑いがちな顔をした。
「ず、随分すっ飛ばしてるね……」
そう言って、目が慌ただしく泳ぎ始めた。何事かを一生懸命考えているようだ。
けれど、とりあえず、俺の言いたいことは湾曲なく伝わったらしい。その事にまずは一安心だ。
暫く黙って見ていると、急にの顔が赤くなって下を向いた。……赤く?
「?」
「ちょ、ちょっと待って……」
らしからぬ、上ずった声。加えて、恥じ入るように手で顔を隠した。髪の間から除く耳も赤い。
これは、もしかしたら、もしかするのではないだろうか。
「ご、ごめんなさい。こんな時、どういう返事すればすればいいのか、わからないの」
あぁ、手に入ったな、これは。
ここ数年で一番の笑顔が出たと自負している。
END
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当サイトの中で、一番まとも(っぽい)に恋愛感情持ってるのがイタチかなーと。
他に比べて執着心とか強くないイメージ。
リクエストありがとうございました。
2018/01/03