諦めました。





case.1 うちはサスケ



兄さんにいわゆる好きな人がいる、と言うのは別に隠してもいない事実だった。
知らぬは本人のみ、という異常な状態であったということは、置いておくとしても、それでも兄さんのさんに対する執着とも言えるべき感情を向けられて、どうしてあの人は平然としていたのか、それは未だに謎のままだ。
兄さんはそれはもう、涙ぐましい程に積極的にアプローチしていたように思う。どうも、アカデミー時代から何をどう言っても「好き」が伝わらなかったらしく、そうとなれば数で勝負しようと思ったらしい。
「好き」だと言って伝わらないなんて、そんなわけあるか。それはもう振られてるってことじゃないのか、とは流石に兄さんに言えなかった。というか、兄さんは良い返事を貰えるまで例え決定的に振られようが関係ないという考えだったらしく、それには呆れてしまった。


話は変わるが、そんな兄の想い人のさんには弟がいる。外見的には全く似ていない姉弟だ。そしてその弟は何の因果か俺と同じチームになった。そのせいなのか、というかそれを利用してなのか、兄さんは前以上にさんを家に呼ぶようになった。そしてさんも、ナルトがいるからなのかは知らないが、何の疑いもなくやってくる。そして母さんにまで嫁扱いされて、けれどそれをただ笑って否定も肯定もしない。兄さんは完全に外堀から埋めに行っている。
何というか、さんは押しに弱い。それで忍者やっていけるのかと俺でさえ思うくらい押しに弱い。このまま本当になあなあなまま籍を入れられてしまうのではないかと心配だ。兄さんは既に婚姻届けを準備していることを俺は知っている。

ただ、そう、何というか、さんが兄さんの事をどう思っているのかいまいち判断しかねる。
嫌いではないと思うが、果たして兄さんが想っている感情と同じ「好き」があるかと言われると、何というか微妙だ。時と場合によっては完全に「脈ナシだな」と感じることもあるくらいだ。
前に、いつだっただろうか、兄さんが任務の帰りにさんへの土産としてかんざしを買ったことがある。控えめながらも丁寧な細工の、それは見事なかんざしだった。聞いたところによれば、そんなに高くもないらしい。女の人がこれを贈られたら十中八九喜ぶだろう。そんなかんざしだった。
それを、さんとナルトを家に呼んでの晩飯の後、まんじゅうだのと定番の土産と混ぜ込んで渡していた。
そのかんざしをさんはじっと見て、感心したように「凄く綺麗ね」と眺めた後、兄さんに返したのだ。



「私、かんざしなんか使わないし」



女装するときにでも使えば? と。そうやって突き返されたのに、兄さんはおかしそうに笑って、



によく似合うんだけどな」



と返されたかんざしをさんの髪にかざした。しかしさんは表情一つ変えず、軽く兄さんの手を払って「お手洗い借りるね」とその場を離れたのだ。
母さんがくつくつとおかしそうに笑いながら人数分のお茶を用意しながら



「失敗しちゃったわね?」



と言った。



「そうかな」



兄さんはまだどこか笑ったような顔で返す。手にはかんざしを持ったまま。
その場にいた俺とナルトだけ、何のことだか分かっていなかった。ナルトに至っては飯食ったばかりなのにもうまんじゅうで頬を膨らませつつ、かんざしを返してしまったことをもったいないと言っていた。

その後しばらくして、男が女にかんざしを贈る意味を知った。
兄さんの部屋には、まだそのかんざしがある。婚姻届けの入っている引き出しと同じところに、だ。
兄さんは全く諦めてなんかいない。






END


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カカシ視点て中々難しいな、と思ったのでサスケだけ。
この物語ではイタチが里抜けしないので、サスケがマイルドになります。



リクエストありがとうございました。


2017/12/13