それは日暮れの明かりに似て







それこそ初日から、轟君とさんはただの幼馴染と言うにはおかしかった。
普段から二人で行動している印象で、そこは完全に二人の世界だった。常にお互いがお互いを見ているというか、とにかく、誰の邪魔も許されなかった。

体育祭以降、轟君の纏う雰囲気が柔らかくなったことは、クラスの皆が感じていたことだと思う。だからこそ、だろうか。
轟君とさんの関係に触れやすくなった。様に思う。

とは言っても、麗日さんに聞いた話だと、女子の中では、結構さんに突っ込んで話を聞いているらしい。
どうにも、さんによれば、家が隣同士の幼馴染で、家族ぐるみで付き合いはあるけれど、別に付き合っているわけではない……らしい。
嘘だ。
聞いた僕はそう思った。

最近、こんなことがあった。























林間合宿の存在とそれに伴った期末試験のアナウンスがされてしばらく、教室に、別の科の男の子が、どこか顔を赤くしながらやってきた。
それを見ただけで、クラスの大半はその男の要件を察していた、と思う。



「あ、あの……さん、いますか」



そう尋ねる男の手には手紙。明らかに告白、だっただろう。
けれど、その時さんは相澤先生に呼ばれていて不在だった。その事を誰かが伝える前に、す、っと轟君がその男の前に立った。
教室が少しざわついたけれど、男の方は気にしなかったらしい。



なら今いねぇ、けど。アイツに何か用か。伝言しとくけど」



予想していたより、穏やかな声で轟君が言った。男は自分より背の高く迫力のある轟君に腰が引けていたけれど、案外優しい対応を受けたことで安心したのか、少し笑顔になった。



「いや、あの、コレ! さんに読んでほしいんだ。渡してもらえるかな……?」

「ああ。わかった」



手紙が轟君の手に渡り、男は「頼んだよ!」と晴れやかな顔で教室から去っていった。
完全に姿が見えなくなるまで轟君は男の背中を見ていた。そうして、徐に手紙の封を開けた。



「ちょっ!」



止めるように声を上げたのは、上鳴君だったか芦戸さんだったか、あるいは両方だったか。



「おいおいおい、宛ての手紙だろ!? 勝手に開けちゃあ……!」



そう言ったのは切島君だったと思う。皆から止められても、轟君は気にすることなく手紙に目を通していった。小さく何かを繰り返し呟いていて、少し聞こえた感じだと、おそらく男の名前だった。差出人だろうか。
そうして最後まで手紙を読んだかと思うと、片手で握りつぶして、そして、燃やした。
あまりのことに、今度は誰もしばらく何も言えなかった。



「……お、い……轟?」



何よりも、そうやって手紙を燃やした轟君の顔が、いつも通りの無表情だったのが怖かった。



「……別に、アイツにこんな手紙はいらないだろ」



何も言えなかった。
きっと、告白の手紙で間違いなかったんだろう。けれど、その、轟君の反応に誰も言葉を返せず、教室内の雰囲気が沈んでいくようだった。



「……どうしたの、皆。こんなに静かだなんて珍しい」



ガラッ、と扉が開いて、皆の硬直がとけた。入ってきたのはさんで、何となく気まずさを感じる。さんも、そのおかしな空気に首を傾げていた。



「ホントどうしたの? ……焦凍、足元に燃えカスあるけど、何か燃やしたの。ダメだよ。火気厳禁だよ」

「あぁ悪い。ちょっと、な」

「……ふぅん?」



轟君は少し口角を上げて、さんの髪を一房取った。さんは皆の顔をぐるりと見回して、その後轟君と目を合わせた。髪を手に取られたまま。見つめ合う二人は完全に二人の世界で、このまま、そう、キ、キスとかしちゃうんじゃないか、ってくらい。



「ま……別にいいけど」



さんが首を軽く振って轟君の手から髪を引き抜いた。



「用事は終わったのか」

「うん。もう帰れるよ」



そうして二人は手早く帰り支度をして、見守り体制のままの僕たちに挨拶をした後、教室を出て行った。



「アレで付き合ってないとか嘘じゃん……」



激しく同意。






END
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きっと家に帰ってから轟君は尋問を受けると思う。
皆の前だからあえて何も聞かなかっただけ。手紙の内容を知っても、それはそれで「ふぅん」で終わるけど。



リクエストありがとうございました。親密な雰囲気……かなぁ。どうでしょう。


2017/11/18